教育・研究・診療の特色

琉球大学医学部は、わが国で最も新しい国立大学医学部として昭和54年に設置され、昭和56年から学生の受け入れを開始しました。また、その13年前に医学部の前身である保健学部が設置されております。現在では、医学部に医学科と保健学科が、大学院研究科には医学研究科(修士課程、博士課程)、保健学研究科(博士前期・後期課程)が設置されています。また、平成22年から大学院医学研究科が大学院講座化され、医学科教員はすべて大学院教員になりました。

教育においては、高い倫理観を備えた質の高い医師、保健・医療従事者の教育・養成を目指し、医学、保健学、医療技術学に関する普遍的な教育を実施しています。また、島嶼県沖縄の地域医療を充実させるために、平成21年度から沖縄県と協力して沖縄県出身の学生を地域枠として医学科に受け入れ、離島医療実習を含む地域医療教育に力を入れるとともに、国際医療の場でリーダーシップを発揮できる医療人材を養成するための学士入学制度を導入しています。さらに、大学院研究科では沖縄の地域特性に根ざした医学・医療の課題を解決するための研究者、指導者を養成するための教育・研究を進めています。

研究面では、がん、脳疾患、循環器疾患などの先進的な研究に加え、わが国で唯一の亜熱帯気候下に位置する島嶼県という沖縄の地域特性に根ざした特色ある研究に力を入れています。具体的には、熱帯・亜熱帯環境下での感染症研究、長寿県沖縄の復興を目指す長寿医学、急速な生活習慣の変化にともなう代謝疾患、生活習慣病の予防、狭い婚姻圏に由来する遺伝性疾患、琉球列島の成り立ちと関連した形質人類学、東南アジア地域での国際保健などの領域で活発な基礎的・臨床的研究を進めています。

診療面では、沖縄県で唯一の特定機能病院であり、エイズ診療拠点病院、がん診療連携拠点病院、肝疾患診療連携拠点病院などの指定,骨髄移植センターの設置により感染症やがん、心臓・循環器疾患、肝疾患、骨髄移植などの高度医療を担うとともに、離島医療を含む地域医療の充実にも寄与しています。また、卒後臨床研修病院としてRyuMICプログラムを推進しており、他の病院群では出来ない臨床研修プログラムを提供しています。特に平成23年度から県や医師会などと協力してオール沖縄の観点から「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」を平成24年3月に開設しました。同センターは、県内全ての医療系学生及び医療関係者が利用可能であり、多彩なシミュレーターや医療機器を保有しているため、基礎から生涯教育まで、レベルに応じた教育・研修ができるようになりました。今後、さらなる発展が期待されています。さらに、機能画像診断センターとしてPET診断機能を有するFIMACCを新たに開設しました。

社会貢献として、地域住民の健康維持・福祉の充実に多大な貢献をしていることはもちろん、沖縄の生物資源を健康に応用する研究などを通じて地域産業の育成にも積極的に関わっています。国際貢献としては、長年、ラオスでの国際医療協力活動を続けており、口唇口蓋裂患者の巡回無料診療(手術)の活動などが高い評価を受けているほか、アフリカ・スーダンでの国際医療協力などに積極的に参加しています。

教育・研究・診療の特色

教育における特色

医学教育(医学教育企画室)

educationImg01医学教育企画室は、質の高い医療人(研究者を含む)の輩出、沖縄県の医療水準の向上のために、医学教育全般に関する企画・立案を行う事をミッションとしています。そして、病院地域医療部、シミュレーションセンターなどとの共同作業で、ミッション遂行のために努力しています。医学教育カリキュラムの検討、離島病院実習、患者付き添い実習などの学生実習の企画、総合試験・共用試験の実施、海外の大学との交流、学生による地域医療セミナーなど地域医療教育に関する取り組み、国際認証にむけたワーキンググループなどを行っています。室長(併任)の他、常勤教員2名、特命教員1名、数名の企画室員(併任)によって構成され、医学教育に関する様々な問題に対応しています。常に医学生と向き合い、学習支援、進路相談、苦情受け付けをはじめとして、よりよい医学教育が推進出来るよう努めています。

長寿県沖縄の島嶼地域医療人材養成(保健学科)

日本と東アジア・東南アジアとの接点に位置する島嶼県沖縄は、日本一高い出生率と国内有数の長寿地域として知られていました。しかし2013年の都道府県別平均寿命は女性が1位から3位に後退し、さらに男性は30位であり、要因として男性の肥満度全国1位に見られる、食生活の変化が指摘されています。保健学科は、看護師、保健師、助産師、養護教諭を育成する看護コースと臨床検査技師、健康食品管理士を育成する検査技術コースからなり、沖縄県民の健康長寿の復活を目指した保健医療や国際島嶼地域医療に貢献できる人材の養成を目指しています。

カリキュラムの特色としては1年次に「早期体験実習」を実施し、学生が沖縄県の保健医療・福祉の現場を体験しています。看護コースでは、学生の頃から実際の現場で患者さんの看護に携わり、またケアプランを作成するなど、理論だけでなく看護の実践を学んでいきます。学生は3年次より興味のある分野に所属して「卒業研究」を行い、リサーチマインドを養います。その中で検査技術コースでは、学生の頃から分子生物学的手法を用いた研究にも取り組んでいます。

保健学科は、沖縄県の地域医療を牽引するリーダーを養成するとともに、将来大学において研究・教育に携わる人材の育成にも努めています。

アジア・太平洋地域との学術交流(保健学研究科)

保健学研究科は、人間健康開発学と国際島嶼保健学の2つの領域から構成されており、沖縄の社会文化的環境および亜熱帯性自然環境を基盤とした健康・長寿の維持増進および再生に資する研究や健康資源の解明に関する研究、アジア・太平洋地域の島嶼・僻地・地域保健の課題とその対策に関する研究などのユニークなテーマに取り組んでいます。この2つの領域はお互いに融合し、亜熱帯性自然環境を基盤とした研究から得られた成果は、アジア・太平洋・アフリカ諸国での保健医療の増進に寄与し、さらに現地での教育活動を通してそれらを支える人材の育成にも貢献しています。

南に開かれた研究科として、現在アジア・太平洋諸国の研究機関と積極的な人材交流と共同研究を推進しています。そして今後一層の学術交流を深めるとともに、国際性豊かな人材育成を目指して、2014年フィリピン大学と新たな部局間協定を結びました。これにラオス健康科学大学、チェンマイ大学も参加して国際セミナーを開催し、より強固なパートナーシップを形成していくことになりました。

保健学研究科修了生が世界に羽ばたき、アジア・太平洋・アフリカ諸国の保健医療機関、さらには世界保健機構などで施策に携わるなど、グローバルに活躍する人材の育成を目指しています。

医学研究科・保健学研究科

医学研究科は、近年の医学・医療のダイナミックな変化に対応できる自己改新力(self-renovation ability)と生涯持続力(sustainability in total life)を持った優れた人材を育成することを目的として、平成26年4月に博士課程の改組を実施しました。改組では、日増しに複雑化・高度化の様相を見せる医学研究の現状を踏まえて、2つあった専攻を1本化し、研究プロジェクトに対応したコースワーク・リサーチワークを編成しました。修士課程では、この新しい教育課程を取り入れ、博士課程と連携した体系的な教育プログラムを提供しています。

保健学研究科は、1986年に国立大学2番目の保健学専攻の大学院として設置された伝統ある研究科で、数多くの優れた人材を輩出して、沖縄の公衆衛生の向上、保健医療の発展のために多大な貢献をしてきました。2007年に博士課程を設置し、現在の保健学研究科保健学専攻博士前期課程・博士後期課程となりました。本研究科は、心身ともに豊かな健康・長寿に資する高度な研究能力を有する保健学分野の研究者および指導者を養成することを目指しています。修了生からは保健医療機関、行政のリーダーだけでなく、研究や教育に携わる大学教員も数多く輩出しています。

臨床教育(附属病院)

附属病院超高齢化社会の到来を目前に控えた今、琉球大学医学部 附属病院では生涯持続力と自己改新力を発揮しながら “働く喜びと夢にあふれた未来医療”を開拓する優れた医師の育成を進めています。かつて世界屈指の長寿を誇った沖縄では急激なライフスタイルの変化に伴って最近10年の短期間に健康長寿のブランドが崩壊し、心・脳血管病、糖尿病や肥満症、慢性腎臓病などが急増しています。また、多くの離島から成る亜熱帯・島嶼県ゆえ、本州とは異なる地域特有の感染症や急速な国際化に伴う新興感染症、沖縄に特徴的な悪性腫瘍などに対抗する予防医学や先進医療の構築が急務の課題となっています。国際的に見ても極めてユニークな沖縄の医療特性に根ざし、琉球大学医学部附属病院では生活習慣や環境の変化・感染や腫瘍が健康障害をもたらす分子メカニズムについて最先端医学を通して多面的に習得できる研修・教育システムを充実させています。また、患者の主要層が高齢化し、異なる医療分野にまたがる複数疾患を抱えるケースが常態化している現実を踏まえ、”深い専門性”と”豊かな学識”をベースに医師としての総合力を発揮し、先進医療の開発や推進を担う人材、そして、急性期医療・予防医療・地域医療の拠点リーダーとして信頼され、最大限に自分自身を生きる”輝く医療人”を輩出していきます。

シミュレーション教育(附属病院)おきなわクリニカルシミュレーションセンター

educationImg02おきなわクリニカルシミュレーションセンターは、沖縄県全県レベルでの学生教育、医療安全、医療従事者の技術養成・維持・向上を目的として、平成24年3月に設立されました。タスクフォースも県立中部病院、浦添総合病院、豊見城中央病院、琉球大学医学部附属病院ほか、多数の施設の医師や看護師が担当しております。さらに過去2年間の間に多くのインストラクターが育ち、医学教育に関与しています。利用者は、医学部医学科や保健学科の学生、看護学校の学生、医療従事者としては琉球大学医学部附属病院や県内各病院の医師、看護師ならびに救命救急士と幅広い職種にわたっています。

利用者実績は、平成24年度13,777人、平成25年度14,753人と着実に利用者が増えています。また、県外からの利用者も昨年度実績で600名近くいます。シミュレーションレベルも基本トレーニングからアドバンストコースまで、様々なシチュエーションに対応できるよう、シミュレーターが取り揃えられています。今後さらに、高度な医療に対応できるように目標を掲げております。
各種情報については、http://okinawa-clinical-sim.org/ をご参照ください。

研究における特色

遅発性脊髄神経障害の病態生理とその治療法の開発

遅発性脊髄神経障害の病態生理とその治療法の開発麻酔科学講座では、マウスにおいて一過性脊髄虚血侵襲を与えることにより遅発性脊髄障害を発症する動物モデルを世界に先駆けて作成することに成功しました(MKakinohana,etal.Stroke2011)。

このマウス遅発性脊髄障害モデルを解析した結果、以下のことが判明しています。
①遅発性脊髄障害は、3.5~5分間の一過性脊髄虚血により発症する。
②遅発性脊髄障害は、虚血後24時間以降に急激に発症する。
③遅発性脊髄障害の発症には、活性型カスパーゼ3が必須である。
④生体内の一酸化窒素(NitricOxide:NO)により、遅発性脊髄障害の防止効果がある。

さらに最近では、この遅発性脊髄障害にToll-LikeReceptor(TLR)の関与を強く示唆する研究結果も出てきています。今後はこのマウスモデルを用い、複数の教室と共同研究し、さらなる病態生理の解明と治療法の開発を進めていきたいと思っています。

生体内ガス分子による抗炎症効果・抗アポトーシス効果に関する研究

researchImg02生体内ガス分子である一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)そして硫化水素(H2S)には、様々な生物活性を有していることが注目されています。われわれはH2Sの生体への影響、特に抗炎症効果・抗アポトーシス効果に着目し、本邦初のH2Sガス吸入装置を整備しました。現在、マウスにH2Sガスを吸入させ、抗炎症効果ならびに抗アポトーシス効果が発揮されるのか、発揮されるのであればその機序は何かを様々な解析方法を用い検索しています。さらに、今後は神経変性疾患モデルに対しH2Sガスを吸入させ、その発症を遅延させるあるいは症状を軽快させる効果について検討する予定です。

抗生剤耐性細菌の分布とその分子微生物学的解析

researchImg03これまでの抗生物質や化学物質使用の歴史により、抗生物質に抵抗性を示す細菌(薬剤耐性菌)が医療施設からだけではなく、市中においても検出されるようになってきています。健常人がこれら薬剤耐性菌を保菌していても、それほど大きな問題を生じることはありませんが、人体の抵抗力が低下することにより難治性で重篤な感染症症状を引き起こす危険性があります。このため、医療機関から分離される薬剤耐性細菌だけではなく、健常人における薬剤耐性菌の保菌状況を調査することが非常に重要になっています。

現在、もっとも問題となっている薬剤耐性菌として、基質拡張型βラクタマーゼ産生菌(ESBL産生菌)があります。これまでの研究により、日本では約10%程度、タイ、ベトナムでは約50%程度の健常人がESBL産生菌を保菌していることが示されています。これらのESBL産生菌の一部では、薬剤耐性遺伝子が細菌の染色体に取り込まれており、より安定に薬剤耐性菌が拡散していく一つの要因となっている可能性も考えられています。沖縄県は東南アジア諸国とも地理的に接しており、これらの薬剤耐性細菌がより伝わりやすい環境にあります。このことから沖縄県立病院とも協力して沖縄県における薬剤耐性細菌の分布と拡散に関する研究を進めています。

人工ペプチドによる革新的診断・治療技術の開発

神経細胞へ侵入するペプチド
人工ペプチドによる革新的診断・治療技術の開発

細胞膜は高分子を直接通過させません。そのため、核酸、ペプチド、タンパク質などを細胞内に導入し、細胞機能を制御するために多様な方法が開発されてきました。分子・細胞生理学講座では、細胞内に取り込まれやすいペプチド(11アルギニン)を発見し、そのペプチドを用いてタンパク質や機能性ペプチドなどを直接細胞内に導入することにより、細胞機能を制御する方法の開発を行ってきました。その後の研究により、細胞選択的に侵入するペプチドなどの多彩な機能を持つ細胞侵入ペプチド群を発見し、癌や神経疾患などの治療・診断を目指した応用研究を展開しています。

肥満・糖尿病の増加傾向にある沖縄から世界に向けて発信する新しい医療と医学の創成

researchImg06big沖縄県は世界に冠たる長寿地域として知られ、現在も百寿に達する長命老人が数多く暮らしています。沖縄地域の”伝統的”な環境要因、遺伝的要因の中には健康長寿をもたらす多くのヒントが含まれています。一方、現在の沖縄県では学童期、若年層から壮年者の肥満傾向が著しく、致死的な心血管・脳血管病、糖尿病や肥満症、慢性腎臓病などが急増しており、昨今の平均寿命全国順位の急落は”沖縄クライシス”と呼ばれています。ライフスタイルや社会構造の急激な変化に伴うこの現象は近未来の日本クライシス、さらにはアジア・太平洋クライシスに拡大することが懸念されます。このような背景を踏まえ、大学院医学研究科・医学部では分子・細胞生理学、薬理学、脳神経外科学、分子解剖学、内科学、先進ゲノム検査医学をはじめ、プロジェクト・ベースに多くの講座が成果達成型のタスクフォースを構築し、沖縄県でしか展開できないユニークで魅力的な研究課題に取り組んでいます。文部科学省特別研究経費プロジェクト、”沖縄における急速な疾病構造変化に健康長寿社会復興の鍵を見いだす”(平成23年度~)や、沖縄県医療基盤活用型クラスター形成支援事業、”沖縄に多く見られる疾患の分子病態解明と新規治療法の探索”(平成25年度~)などがその代表例です。研究手法として、次世代シークエンサー、iPS細胞、間葉系幹細胞、発生工学、エピゲノム医学、分子栄養学、人工ペプチドなどの先端研究技術を駆使し、沖縄地域の環境要因(食・気候・ライフスタイル)や遺伝的要因の特性を切り口とした独創的アプローチにより、沖縄の健康長寿復興を目指すと共に、先進医療・予防医学の質の向上に結実させ、”沖縄発”の新しいライフ・イノベーションのかたちを提案します。特色ある研究テーマとして、沖縄型ゲノム関連疾患の原因解明および遺伝子診断システムの開発、機能的MRIを活用した脳(外)科学・精神医学難病の病態解明、人工多能性細胞を用いた沖縄型ゲノム関連疾患における治療法の探索、疾患モデル動物を活用した心血管病の分子病態の解明と創薬基盤研究、メタボリックシンドローム病態における食欲異常や代謝異常に関わる遺伝子のエピゲノム解析と沖縄肥満者におけるエピゲノム変化の探索などを掲げており、夢にあふれる未来医療を拓く新規性と独創性に満ちた成果が着々と集積しています。

琉球人のゲノム多様性―地域研究からグローバルな視点を―

researchImg07
琉球列島は亜熱帯気候を特徴とする島嶼地域であり、そこに住む人々も固有の歴史を有しています。近年の革新的なゲノム解析技術により、”ウチナンチュ(琉球人)”の起源や特徴について、ゲノムからアプローチすることが可能になりました。

医学研究科・医学部では、琉球人のゲノムを解析し、本土日本やアジア大陸の集団との違いを明らかにするとともに、琉球列島内におけるゲノム多様性についても調べています。また、容姿を含む肉眼解剖形態や疾患感受性などの形質において、琉球人と本土日本人との間の違いに着目し、その遺伝要因および環境要因を探求しています。

このような研究から、亜熱帯島嶼環境への適応や地域特異的な疾患に対する理解を深め、その成果を次世代の医療や技術へと応用することを目指しています。さらに、アジア大陸部など周辺地域の人々の特徴も、琉球人と対比することで、はじめて浮き彫りになってきます。私たちは、グローバルな視点をもつために、地域に根差した研究を進めることが重要だと考えています。

青少年におけるソーシャル・キャピタルと健康に関する社会疫学的研究

健康の社会的決定要因として、ソーシャル・キャピタルという概念が注目を集めています。ソーシャル・キャピタルとは、人々の協力を容易にさせる信頼、規範、ネットワークといった個人・集団レベルの社会的資源のことで、ソーシャル・キャピタルが豊かなコミュニティは、健康情報が伝わりやすく、健康規範も高くなり、人々が助け合い、心理社会的ストレスも少なくなるために、健康状態も良好になると考えられています。沖縄はその地域特性からソーシャル・キャピタルが豊かな地域であると指摘されています。

一方、若者の場合、日中の大半を過ごす学校は重要なコミュニティとなり、その文脈におけるソーシャル・キャピタルは彼らの人格形成や学業成績だけでなく健康状態にも大きな影響を及ぼすと思われます。疫学・健康教育学分野では、学校におけるソーシャル・キャピタルと若者の健康指標との関連を明らかにする研究に取り組んでいます。これまで、個人特性を越えた集団レベルのソーシャル・キャピタルが健康に及ぼす文脈効果、すなわち、個人特性だけでは説明できない健康影響を学校レベルのソーシャル・キャピタルが有しているかもしれないことを示唆する知見が得られています。

医学部は総力を挙げて「がん」「脳」「老化」「メタボリズム」に取り組む事で
これら将来性の高い研究分野を融合した”健康長寿学”の樹立をめざしています。


(図の説明)マウスの海馬HE染色像

現在では脳の老化とは海馬歯状回 subgranular layer に局在する神経幹細胞/神経前駆細胞の新生能の低下と考えられている。

本学医学部では、文部科学省特別経費プロジェクトとして「沖縄県における難治性悪性腫瘍の地域特性・治療抵抗性機序の解明と新規診断法・治療法の開発」(平成23年度~平成25年度)および「沖縄における急速な疾病構造の変化の中に健康長寿の鍵を見出す」(平成23年度~平成27年度)の2つの課題に対して放射線学、分子生理学、脳神経外科学、高気圧治療部、分子解剖学、薬理学、遺伝医学の6講座が中心となり研究活動を行っています。医学部が総力を挙げて「がん」「脳」「老化」「メタボリズム」といった野心的な研究分野に学部横断的体制で取り組んでいるものです。

「がん」に関しては、放射線治療抵抗性を腫瘍の低酸素状態に着目して高気圧酸素治療の応用を行い世界水準の治療成績を達成しています。「脳」に関しては、興奮性グルタミン酸作動性回路網の機能や海馬神経新生能と内分泌・代謝疾患や脳疾患との関連に関した研究が推進されています。「老化」「メタボリズム」に関しては糖尿病、脂質代謝異常、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などの致死的血管病の克服による健康長寿復興への道を目指しています。今後これら課題の研究基盤情報が沖縄から世界に発信される事により本学医学部が東アジアのランドマーク・ユニバーシティーになる事をめざしています。

地域の絆に根ざした伝統的沖縄食による食育介入研究(チャンプルースタディ7)

researchImg10わが国の中でも戦後の沖縄は社会経済的変化が大きく、県民の健康状況も悪化しています。平均寿命のランキングも男女とも低下し、県民全体の健康長寿の回復が望まれます。

医学研究科・医学部では、長寿を支えてきた高齢者の伝統的な食事パターンを基にして現代人も受容されやすいレシピを開発して、2005年から一般住民を対象にした無作為割付による食事介入研究(チャンプルースタディ)を行ってきました。最初は、沖縄野菜の機能性研究から始まりましたが、その後、食事の行動変容の改善を目的とした研究に移っており、これまでの結果から、降圧などの新しいポピュレーションアプローチのあり方がわかってきました。



researchImg11沖縄は、地域の絆(ゆいまーる)などの伝統的ソーシャルキャピタルが豊かな地域である知見が得られており、食育、学校給食、地域ネットワークへの介入が、食事行動変容に効果的であることが期待できます。現在、沖縄南部地区における学童と親(約2,000人)を対象とした小学校区単位の介入研究を行っています。

介入方法は、食育教材や学校給食などを活用し、生体指標、野菜・食塩摂取、栄養・食事知識などから、介入効果を測定します。減塩と野菜摂取を促す介入により、最終的に行動変容の効果を科学的に検証します。児童を適正な食行動に誘導することはポピュレーションアプローチを成功させる上で、重要な鍵となっています。最終的に、地域全体の肥満、食塩摂取、高血圧の低減を目的とした食事行動、消費行動、生体指標および血圧・体重などの改善を図り、実践的かつ地域の現状に合わせた介入方法の開発を目指します。

診療における特色

子宮頸がんの妊孕性温存手術 : 広汎子宮頸部摘出術

clinicImg01
子宮頸がんの浸潤がん症例(進行期IB,II期)に対しては、標準手術として広汎子宮全摘術が行われますが、その後の妊娠・出産はできなくなります。近年、手術後も妊娠・出産の可能性を残すことを目的として、広汎子宮頸部摘出術(図)が行われるようになってきました。本手術は広汎子宮全摘術と同様に子宮頸部を広く摘出し、子宮体部と腟の縫合、骨盤内リンパ節郭清を含むもので、治療成績も広汎子宮全摘術と同等であるとされています。産科婦人科でも2008年より本手術を取り入れ、現在までに18人の患者さんに実施し、再発症例はいません。

妊娠を契機に子宮頸がんが診断され、その中で妊娠継続を希望する患者さんもしばしばみられます。通常は妊娠継続・出産を諦めて子宮を摘出します。当科において2013年8月、浸潤子宮頸がんの妊婦(妊娠17週)さんに、胎児を子宮内に残したまま患部を切除する本手術を行い、満期まで妊娠を継続し、2014年1月妊娠38週に帝王切開で無事健常児を出産しました。出産後、母児ともに健康で経過は順調です。今後も新たに妊娠、出産できる可能性があります。妊娠中の本手術の報告は世界でこれまで10例しかありません。国内では、手術後無事に妊娠継続し満期で出産したのは、大阪大学の1例に次いで2例目です。

子宮頸がんは、20代、30代の女性に急増しており、妊娠をきっかけに見つかるケースも増えています。出産を強く望む患者さんにとって、治療の新たな選択肢になることが期待できます。

末期心不全に対する植え込み型補助人工心臓治療

「植え込み型補助人工心臓」植え込み実施2012年に、植え込み型補助人工心臓実施施設に認定されました。これまでに2例の患者さんに植え込み型補助人工心臓手術を施行しました。本装置は心臓移植が必要な患者さんに対して、心臓移植を行うまでの”つなぎ”として植え込みが行われます。本邦の心臓移植実施数は国際的にみても極端に少ない状況です。そのため、多くの心臓移植待機患者が、従来は”体外式補助人工心臓”を取り付けて心移植までの間(平均1000日)入院を余儀なくされ、また、その待機期間中に不幸な転機をたどる患者も少なくありません。一方、本「植え込み型」は従来の”体外式”と異なり体内に植え込む装置であり、退院し在宅療養ができるため、心移植待機患者のQOLの向上に大きく貢献します。更に、本装置を植え込んで就労し、またご結婚され普通の日常生活を過ごしている患者さんもでてきています。すなわち、末期心不全患者に対する心臓移植という受け皿が小さい本邦においては、本装置が心臓移植の”つなぎ”ではなく”最終治療手段”になる可能性が高く、現在その方面での研究が進みつつあります。本邦でも2011年4月にEVAHEARTとDuraHeartが保険償還され、その後HeartMate II、Jarvik 2000が保険償還されました。

現在、本装置植え込み実施認定施設数は、末期心不全に対する治療研究が盛んな施設を中心に全国でも20余施設であります。特に沖縄県は島嶼県であり完結型医療が求められ、当該患者には大きな福音になると考えています。

低侵襲心臓手術 (Minimally Invasive Cardiac Surgery : MICS)について

clinicImg03心臓手術の低侵襲化をめざし、約5ー6cmの小さな傷で内視鏡補助下に胸骨を切開しないで手術を行う方法が徐々に普及しています。この手術の特徴は患者さんに優しい低侵襲であるため、術後の回復が早く、骨髄炎などの重篤な感染が回避できることです。傷跡が目立たなく、特に女性では乳房に隠れてしまうため、美容上の利点も大きいのです(図1)。第二外科でも2013年よりMICS手術を導入開始しています。

心臓手術の低侵襲化をめざし、約5ー6cmの小さな傷で内視鏡補助下に胸骨を切開しないで手術を行う方法が徐々に普及しています。この手術の特徴は患者さんに優しい低侵襲であるため、術後の回復が早く、骨髄炎などの重篤な感染が回避できることです。傷跡が目立たなく、特に女性では乳房に隠れてしまうため、美容上の利点も大きいのです(図1)。第二外科でも2013年よりMICS手術を導入開始しています。

通常の心臓手術では胸骨正中切開で行います (図2左)。この方法では、前胸部にある胸骨という骨を縦に全長にわたり切離し、心臓に到達します(図3)。胸の中央に約25cmの縦の傷がつきます(図4)。患者さんにとっては精神的にも肉体的にもストレスが大きくなってしまいます。

clinicImg04 clinicImg05
これに対し、MICS手術では肋間開胸という、肋骨と肋骨の間を利用して心臓に到達します(図2右)。心臓の内部を操作する間は通常の心臓手術と同様に、心臓を止めて手術をします。手術中、その心臓を止めている間は、人工心肺装置という心臓と肺の代わりをする装置を使います。その人工心肺装置により脳、肝臓、腎臓などに血液を循環させるのです。MICS手術では脚のつけ根の部分から動脈と静脈に各1本ずつ管を挿入し、人工心肺を駆動させます(図5、図6)。
clinicImg06
clinicImg07
MICS手術で一般的に行えるのは心房中隔欠損症や、弁手術(主に僧帽弁、三尖弁)、心臓腫瘍の手術です。僧帽弁に関しては形成術及び置換術が可能です。心臓手術が必要とされる患者さんは是非、当科へご相談下さい。

骨髄移植センターの設置

本院では、2010年に骨髄移植センターの設置が認可され、2010年6月より骨髄移植センター(内科および小児科)を立ち上げ、骨髄移植に関する診療および研究体制を確立し、血液専門医および小児血液・がん専門医の育成、コメディカルの教育を行い、本県の移植医療を推進しています。また、非血縁者骨髄・臍帯血移植認定施設、骨髄バンクドナ ー骨髄採取認定施設として、広く県民のニーズに応えています。

成人では、本県に発症頻度の高い成人T型細胞白血病(ATL)やリンパ腫等の難治性血液疾患に対して年間10例以上、また小児においては県内唯一の同種移植施設として、年間10例前後の移植を行っています。今後とも、島嶼県沖縄における地域完結型医療の充実を目指します。

ハイブリッド手術室

ハイブリッド手術室は血管内治療を手術室で行うことができるシステムです。すなわち血管造影室と手術室のハイブリッドであり、琉大病院では最新のシステムを導入しました。血管内治療は低侵襲でADLの改善に有用ですが、少ないとはいえopen手術への移行が必要な場合があります。ハイブリッド手術室では速やかにopen手術へ移行できることから、安全に血管内治療を行うことができます。大動脈弁狭窄症は最も重症な心臓弁膜症の一つであり、従来開心術の適応になっていましたが、当院ではハイブリッド手術室を用いた「経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI: Transcatheter Aortic Valve Implantation )」の導入を検討しており、TAVIにより高齢または重篤な合併症を持つ大動脈弁狭窄症を持つ患者さんに低侵襲な血管内治療が可能になります。ハイブリッド手術室は天井懸垂型のコーンヘッドCTを用いることにより、鮮明な三次元画像を得られるため、血管内治療に加えて脳外科や胸部外科の手術で極めて有用です。整形外科や耳鼻科では三次元骨切り術に威力を発揮し、人工関節置換術では術前計画と組み合わせることで、より正確な設置が可能になります。また、近年急増している脊椎圧迫骨折のペディクルスクリューの刺入や、椎体形成術を安全に行うことにより入院期間の短縮に加えて患者さんのADLを早期に改善します。

clinicImg08 clinicImg09

血液浄化療法部

わが国の慢性透析患者さんの総数は2012年末に約31万人に達し、沖縄県では4,255名となっています。県民333人に1人、70歳以上の男性高齢者では100人に1人の割合となっています。その他、自己免疫疾患、肝不全、手術や悪性腫瘍、循環器疾患の検査、治療などのために一時的に血液浄化療法が必要となる方もいらっしゃいます。本院血液浄化療法部では2011年12月より透析ベッドを20床に増床し、あらゆる血液浄化療法に対応できる体制を整えました。

慢性腎臓病(CKD)の原因の4割以上は糖尿病で、次に慢性腎炎、高血圧症が続きます。腎臓病が悪化すると尿毒症(嘔気、嘔吐、食欲不振、かゆみ、頭痛、息切れなど)が出現します。

しかし透析になったからといって人生をあきらめる必要はありません。特に、わが国の透析療法の治療成績は世界一良好です。透析しながら立派に社会復帰している方も多く、10年以上透析療法を施行している方は珍しくありません。透析期間の最長は44年となっています。60歳代で透析を開始しても、十分80歳代まで長生きできます。しかし、そのためには良く食べ、動き、透析を受けることが必要です。当院では最新の医療情報をもとに患者さんに合った腎不全治療(腎移植、血液透析、CAPD)を提供し、合併症を有する患者さんへも全面的なサポートを行っています。通院困難な方々にも個別に最適な腎不全治療を提供すべく努力しています。

機能画像診断センターの設置

2013年3月、本学医学部附属病院内にPET/CT検査を行う施設として機能画像診断センター(Functional Imaging&Communication Center;FIMACC(通称ファイマック))が設置されました。

PET/CT検査とは、放射性物質により目印を付けた薬剤を体内に注射し、専用カメラで撮影、体内での薬剤の取り込み程度や分布を評価する検査です。日本国内では、FDGと呼ばれるブドウ糖の類似物質を用いたPET/CT検査が、悪性腫瘍やてんかん、虚血性心疾患に対して保険の適用を認められており、特にがん診療における病期診断や再発診断、転移診断に役立つとされています。

本学医学部附属病院は沖縄県唯一の「都道府県がん診療連携拠点病院」でありながらも、今までこの検査を施行するための設備がありませんでした。したがって機能画像診断センターの設置は、今後の沖縄県のがん診療に対して大きな力になると考えられています。

機能画像診断センターの具体的な役割としては、

  • (1)最新鋭PET/CTカメラによる、がん診療への画像診断面からの貢献。
  • (2)大型サイクロトロンや多核種薬剤合成装置を用いた、新たな放射性診断薬の研究や臨床応用。
  • (3)放射線医学総合研究所(千葉県)との連携による、粒子線治療など先進医療への患者紹介。

などが挙げられます。

また今年度中にPET/CT検査によるがん健診を開始する予定です。これにより早い段階でのがんの発見が可能になり、本学医学部附属病院の各診療科での早期治療がますます期待されます。

fimacc01
clinicImg11
clinicImg12
fimacc04