教育・研究・診療の特色

琉球大学医学部は、わが国で最も新しい国立大学医学部として昭和54年に設置され、昭和56年から学生の受け入れを開始しました。また、その13年前に医学部の前身である保健学部が設置されております。現在では、医学部に医学科と保健学科が、大学院には医学研究科 (修士課程、博士課程)、保健学研究科(博士前期課程・博士後期課程) が設置されています。また、平成22年から大学院医学研究科が大学院講座化され、医学科教員はすべて大学院教員になりました。

教育においては、高い倫理観を備えた質の高い医師、保健・医療従事者の教育・養成を目指し、医学、保健学、医療技術学に関する普遍的な教育を実施しています。また、島嶼県沖縄の地域医療を充実させるために、平成21年度から沖縄県と協力して沖縄県出身の学生を地域枠として医学科に受け入れ、離島医療実習を含む地域医療教育に力を入れるとともに、国際医療の場でリーダーシップを発揮できる医療人材を養成するための学士入学制度を導入しています。さらに、大学院研究科では沖縄の地域特性に根ざした医学・医療の課題を解決するための研究者、指導者を養成するための教育・研究を進めています。

研究面では、がん、脳疾患、循環器疾患などの先進的な研究に加え、わが国で唯一の亜熱帯気候下に位置する島嶼県という沖縄の地域特性に根ざした特色ある研究に力を入れています。具体的には、熱帯・亜熱帯環境下での感染症研究、長寿県沖縄の復興を目指す長寿医学、急速な生活習慣の変化にともなう代謝疾患、生活習慣病の予防、狭い婚姻圏に由来する遺伝性疾患、琉球列島の成り立ちと関連した形質人類学、東南アジア地域での国際保健などの領域で活発な基礎的・臨床的研究を進めています。さらに、今年度は、沖縄県の再生医療中核拠点病院として、再生医療研究センターを新設しました。

診療面では、沖縄県で唯一の特定機能病院であり、エイズ診療拠点病院、がん診療連携拠点病院、肝疾患診療連携拠点病院などの指定、骨髄移植センターの設置により感染症やがん、心臓・循環器疾患、肝疾患、骨髄移植などの高度医療を担うとともに、離島医療を含む地域医療の充実にも寄与しています。また、卒後臨床研修病院としてRyuMICプログラムを推進しており、他の病院群では出来ない臨床研修プログラムを提供しています。特に平成23年度から県や医師会などと協力して、オール沖縄の観点から「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」を平成24年3月に開設しました。同センターは、県内全ての医療系学生及び医療関係者が利用可能であり、多彩なシミュレーターや医療機器を保有しているため、基礎から生涯教育まで、レベルに応じた教育・研修ができます。また、平成24年度にFIMACC(機能画像診断センター)を開設し、平成26年度には災害医療と救急医療の機能を兼ね備えた救急災害医療棟を新設しました。さらに、平成26年度に沖縄県の施策として、医師の地域偏在を解消することを目的に「沖縄県地域医療支援センター」が開設されました。今後、医学生や医師のキャリア形成支援や、医師不足病院等への支援を行っていきます。

社会貢献として、地域住民の健康維持・福祉の充実に多大な貢献をしていることはもちろん、沖縄の生物資源を健康に応用する研究などを通じて地域産業の育成にも積極的に関わっています。国際貢献としては、長年、ラオスでの国際医療協力活動を続けており、口唇口蓋裂患者の巡回無料診療(手術)の活動などが高い評価を受けているほか、アフリカ・スーダンでの国際医療協力などに積極的に参加しています。

教育における特色

医学教育(医学教育企画室)

医学教育企画室は、質の高い医療人の輩出および沖縄県の医療水準向上のために、医学教育カリキュラム、臨床実習プログラムなど学生の医学教育全般に関する企画・立案を行う事をミッションとしています。室長(併任)の他、常勤教員2名と10名程度の企画室員(併任)、事務員4名によって構成され、医療現場におけるコミュニケーション能力や初歩的診察スキルの取得を目的としたシミュレーション演習、将来のキャリア・パスについて考える医学概論、チーム基盤型学習(TBL)形式でのチュートリアル学習に加え、各種実習外来患者付添実習、体験学習(療養型施設 訪問見学実習)、離島地域病院実習、離島診療所および海外の大学での参加型臨床実習も積極的に行っています。医学科5年次・6年次の総合試験の取りまとめも行い、医師国家試験合格率の向上も目指しています。また学務課と協力し、医学科4年次対象の共用試験(CBT・OSCE)、医学科6年次対象の診療参加型臨床実習後客観的臨床能力試験(Post-CC OSCE)の企画・運営にも関わっています。常に医学生と向き合い、学習支援、修学相談等を行い、グローバルな基準に対応した医学教育を提供できるよう努めています。

長寿県沖縄の島嶼地域医療人材養成(保健学科)

日本と東・東南アジアとの接点に位置する島嶼県沖縄は、国内有数の長寿地域として知られていました。しかし2013年の都道府県別平均寿命は女性が1位から後退して3位、男性は30位であり、「330ショック」として沖縄の医療関係者に大きな衝撃を与えました。要因として食生活の変化による生活習慣病の増加が挙げられます。一方で沖縄県の島嶼部は高齢化が進んでおり、高齢者医療の充実が大きな課題となっています。

保健学科は看護師、保健師、助産師、養護教諭を養成する看護コースと臨床検査技師、健康食品管理士を養成する検査技術コースからなり、沖縄県の健康長寿の復活を目指し、また沖縄県民が安心して医療を受けられるよう、地域医療、保健医療に貢献する人材を育成しています。学生は経験豊かな教員陣から広範囲な知識を得る一方、早い時期から地域医療機関での実習を行うことで、高い実践力を養い、地域に根付いた医療が出来るよう実力を蓄えていきます。そのほか東南アジアの国々との交流を経て、グローバルな視点から地域問題を考えていく力を養います。

保健学科は沖縄県の地域医療を牽引するリーダー、教育・研究に携わる教員、国際社会で活躍するグローバル人材の育成に努めています。

アジア・太平洋地域との学術交流(保健学研究科)

保健学研究科は、人間健康開発学と国際島嶼保健学の2領域で構成されており、沖縄県の社会文化的環境および亜熱帯性自然環境を基盤とした健康・長寿の維持増進および再生に資する研究や健康資源の解明に関する研究、アジア・太平洋地域の島嶼・僻地・地域保健の課題とその対策に関する研究などのユニークなテーマに取り組んでいます。この2つの領域は互いに融合し、亜熱帯性自然環境を基盤とした研究から得られた成果は、アジア・太平洋・アフリカ諸国での保健医療の増進に寄与し、さらに僻地での教育活動を通してそれらを支える人材の育成にも貢献しています。

南に開かれた研究科として、現在アジア・太平洋諸国の研究機関と積極的な人材交流と共同研究を推進しています。フィリピン大学、タイ・チェンマイ大学、ラオス健康科学大学とは交流協定を締結し、学生交流、共同研究が活発に行われています。また国費留学生特別プログラムの下、これらの大学出身者を大学院生として迎え、グローバルヘルスに関する研究を推し進めています。

保健学研究科修了生が世界に羽ばたき、各国の保健医療機関さらにはWHOで施策に携わるなど、グローバルに活躍する人材の育成を目指します。

医学研究科・保健学研究科

医学研究科は、近年の医学・医療のダイナミックな変化に対応できる自己改新力(self-renovation ability)と生涯持続力(sustainability in total life)を持った優れた人材を育成することを目的として、平成26年4月、博士課程の改組を実施しました。改組では、日増しに複雑化・高度化の様相を見せる医学研究の現状を踏まえて、2つあった専攻を1本化し、研究プロジェクトに対応したコースワーク・リサーチワークを編成しました。修士課程では、この新しい教育課程を取り入れ、博士課程と連携した体系的な教育プログラムを提供しています。

保健学研究科は、1986年に国立大学2番目の保健学専攻の大学院として設置された伝統ある研究科で、数多くの優れた人材を輩出して沖縄県の公衆衛生の向上、保健医療の発展のために多大な貢献をしてきました。2007年に博士課程を設置し、現在の保健学研究科保健学専攻博士前期課程・博士後期課程となりました。本研究科は、心身ともに豊かな健康・長寿に資する高度な研究能力を有する保健学分野の研究者および指導者を養成することを目指しています。修了生からは保健医療機関、行政のリーダーだけでなく、研究や教育に携わる大学教員も数多く輩出しています。

臨床教育(附属病院)

沖縄県は今、多くの離島から成る亜熱帯・島嶼県という地域特性から、地域医療の充実とともに、地域特有の感染症や急速な国際化に伴う新興感染症、本県に特徴的な悪性腫瘍などに対抗する予防医学や先進医療の構築が急務の課題となっています。琉球大学医学部附属病院では「病める人の立場に立った、質の高い医療を提供するとともに、国際性豊かな医療人を育成する」という理念に基づき、患者本位の質の高い医療を提供できる医療人の養成、”高い専門性”や”豊富な知識”に基づく総合力を発揮し先進医療の開発・推進を担う人材の養成に努めています。また、琉球大学医学部附属病院では沖縄の医療特性に根ざし、生活習慣や環境の変化・感染や腫瘍が健康障害をもたらす分子メカニズムについて最先端医学を通して多面的に習得できる研修・教育システムをも充実させています。

熱意のある指導者のもと屋根瓦式の教育体制により、基本的臨床能力(知識、技能、態度)の修得に加え、専門性の高い予防医学や先進医療、臨床研究への応用力や国際化への適応能力を獲得し、時代の要請や地域社会のニーズに応えられる幅広いステージで活躍できる”多様な医療人”を輩出していきます。

シミュレーション教育(附属病院)おきなわクリニカルシミュレーションセンター

おきなわクリニカルシミュレーションセンターは、沖縄県全域での医学・医療教育、医療安全、医療従事者の技術養成・維持・向上を目的として、平成24年3月に設立され、県内の臨床研修指定病院を中心とした多くの医療機関、教育機関に利用が広がっています。

過去4年間のセンターでのトレーニングで多くのインストラクターが育ち、医学教育に関与しています。医学生、看護学生、医師、看護師のほか、薬剤師、養護教諭、救命士など幅広い職種にわたり利用されています。

利用実績としては、平成24年度13,777人、平成25年度14,837人、平成26年度16,669人、平成27年度16,867人と着実に利用者が増えています。海外、県外からの利用者も過去2年間で1,564人となり利用者全体の約4.7%を占めています。

基本トレーニングからアドバンストコースまでさまざまなシミュレーションレベルに対応できるよう多くのシミュレーターが揃えられています。シミュレーション教育は技能の獲得や安全管理を理解するためにも特に重要です。医療安全を保つことは病院の最も重要な役目であり、今後さらに多くの方々に利用して頂けるよう改善を進めたいと思います。

各種情報については、http://okinawa-clinical-sim.org/ をご参照ください。

研究における特色

日常の病理診断と最先端の遺伝子解析技術の融合による血液がんの病態解明

in situ ハイブリダイゼーション法を用いて検出できたEBウイルス。矢印にあたるリンパ洞だけに、茶色に発色するウイルス陽性細胞が確認できます。

そもそも病理学とは、その名前の通り、「病」の「ことわり」を追求する学問であり、人間はなぜ病気になるのかを解明することが目的です。では、どのような方法を用いて解明するのでしょうか。その中心に据えられるのは、病気を「見る」ことです。蚊に刺されると皮膚が赤く膨らみます。風邪をひくと喉が赤く腫れて白苔が付きます。これらの所見は肉眼的所見といい、肉眼的に異常を認めた部位を顕微鏡で観察して得られた所見を組織学的所見といいます。病理学はこれらの所見を組み合わせることでこれまで病気を分類し、病態を理解してきました。この形態学的な手法は今でも病理学の主要な研究手法であり続けています。

病理学が近年注目を浴びているのは、これまでに病理学が解明し、知識の蓄積が病気の分類、特徴が診断という形で実地臨床に貢献できるようになってきたことです。実地臨床での診断を主な仕事にする病理学者は病理診断医と言われます。がんの診断においては、病理学的な評価が絶対的な診断基準になっています。日本人の3大死因である心臓病、脳血管障害、がんのうちがんの割合は年々増加しています。がんの中には正確な診断がなされることで治癒できる可能性もあるものがあり、病理診断医はますます必要となる仕事です。

この研究はホームページでも取り上げられました。

さて、研究の方に目を向けると、細胞病理学講座では、血液のがんである白血病、リンパ腫などの病気を対象に、その発症メカニズムと新しい診断法の開発を中心テーマにして研究しています。すでに述べましたように、血液がんの領域でも形態学的所見は重要な位置を占めていますが、それに加えて近年大変なスピードで遺伝子異常が解明されています。当講座の研究の特徴として、日常の診断から出てくる疑問を出発点にして、形態学および遺伝子の両方の視点から病気にアプローチしていくことが挙げられます。

一例を挙げると、EBウイルスというがんウイルスがありますが、このウイルスに感染した腫瘍細胞の特徴的な増殖パターンを、in situハイブリダイゼーション法という技術を使って世界で初めて証明した論文を昨年度発表しました。病気の解明は日々進んでいますが、その多様性は豊富であり、未だ多くのことがわかっていません。これからも最新の遺伝子解析技術を応用しながら、病気に関する知の裾野を広げていこうと思います。

ガス分子群の生体制御機構の解明と医学への応用

1. 検証が不十分なガス分子群の生体制御機構と医療応用

一酸化窒素(NO)、硫化水素(H2S)、酸素(O2)などのガス低分子化合物は、以前は大気中の成分あるいは大気汚染物質としての認識しかありませんでしたが、最近になってこれらのガス分子群がヒトの体内でも生成あるいは利用され重要な生物活性を発揮していることが明らかにされ、一躍注目を集めるようになりました。しかし、ヒト生体内におけるガス分子群の生体制御機構や医療応用については、未だ十分に検証されていません。

2. 世界有数のガスバイオロジー研究環境

本研究科にはNO、H2S、O2研究で実績のあるガスバイオロジー研究者が一堂に会し、ガス分子群に関して重点的に研究を推進しています。さらに附属病院には日本最大の高気圧O2治療室があり、日本最多の症例数を有し、悪性腫瘍の治療に高気圧O2療法を併用する先進的臨床研究において成果を上げています。

3. ガスバイオロジー研究の実績

薬理学講座では、長年一貫してNOに関する研究を行っています。NO合成酵素完全欠損マウス(triple n/i/eNOSs−/−マウス)を開発し、循環器系、腎臓系、代謝系、呼吸器系、骨系を含むさまざまなシステムにおけるNOSsの重要な役割を明らかにしてきました(Circulation 2008, Hypertension 2014他)。最近の研究では、NO代謝産物のNO2−/NO3−が不足した食事がマウスに代謝症候群、血管不全、心血管死を引き起こすことを見出し、カロリー過多がなくても代謝症候群を引き起こす食事成分の同定に成功しました(Diabetologia 2017)。

H2Sは、高濃度では毒ガスですが、低濃度では細胞保護作用が示唆されています。麻酔科学講座では、米国Harvard大学との共同研究において、低濃度H2S吸入療法が神経細胞死を著明に抑制することを見出しました (Stroke 2011、Antioxid Redox Signal 2011他)。現在、この画期的成果を踏まえて、H2S吸入療法の確立に向けた橋渡し研究を推進しています。

O2は多細胞生物の生死を決める最も重要な環境要因です。分子・細胞生理学講座では、未知の低O2応答遺伝子を多数発見し(EMBO reports 2011, Nucleic Acids Res 2011他)、その遺伝子改変マウスを樹立して機能解析を進めています(Sci Rep 2017他)。また、脳神経外科学講座では、悪性脳腫瘍患者における放射線化学療法と高気圧O2療法の併用効果を検証し、脳腫瘍縮小作用が増強される世界初の成果を見出しつつあります。

4. 現在のガスバイオロジー研究の取り組み

本研究科では、基礎・臨床の垣根を越えた学際的研究を行っており、世界で唯一のガス関連遺伝子改変マウスや独自のヒト臨床データを有しています。これは、他大学には無い本研究科のみが持つ最大の強みであり、基礎医学的データを患者へと直結させ、独創的な治療法の開発を実現できる基盤があります。この背景を踏まえて、本研究では、多様なガス分子群の生理作用や治療効果の科学的検証を行い、その成果を踏まえて臨床への橋渡し研究を推進し、真に国民の健康福祉に寄与する全く新しい発想の医療の創成を目指しています。

5. 研究成果の社会還元

超高齢化社会に突入した我が国では、代謝性疾患、虚血性疾患、癌、感染症の有病率が非常に高く、その克服が喫緊の課題となっています。本研究において、これらの疾患の発症・進展におけるガス分子群の役割が詳細に解明され、ガスを利用した効果的で安価な新規治療法が開発されれば、当該疾患の征圧に結びつくことが予想され、我が国のライフ・イノベーションの先駆けとなることが期待されます。

地域包括ケアシステムの構築に向けた保健学的アプローチ

日本は諸外国に例をみない速さで高齢化が進行しており、団塊の世代が75歳以上となる平成37年(2025年)以降は、国民の医療・介護を必要とする人が現在より300万人以上増加し、入院患者数は2008年度の3倍以上、年間死亡患者数は1.5倍の約160万人と予想され、地域包括ケアシステムの構築が急務の課題となっています。さらに、慣れ親しんだ地で最期までその人らしく生きることを支えるには、対象の多様な医療・健康ニーズに適切に対応できる能力と、対象を全人的に理解し包括的にケアを展開できる能力を備える看護師の育成が求められています。

このような時代の要請に対応すべく、保健学科基礎看護学分野では、地域(家族)の受け入れ体制の構築、看護師不足の解消および看護教育のあり方など地域包括ケアシステムの構築に対する課題に対し、教育・研究を通し積極的に取り組んでいます。

地域(家族)の受け入れ体制については、沖縄県の20歳以上の地域住民2,663名を対象とした調査の結果、経済状況の低さが親扶養意識の低さに影響を及ぼすこと、経済状況が低い状況においても地域愛着(ソーシャルキャピタル)の向上によって親扶養意識は高まることを明らかにし,地域の物理的な環境整備とともに、地域住民のネットワーク形成につながるような施策を取り入れた地域づくりの重要性を示しました。

看護師不足の解消については、沖縄県内の看護師2,595名を対象に調査を行った結果、看護師の職場内信頼感(Work-place social capital)はワークファミリーコンフリクトに伴う精神健康の悪化を有意に緩衝することを明らかにし、職場内信頼感の向上に向けた取り組みを推進しています。

看護教育のあり方については、沖縄県内の看護師1,470名を対象に死生観とターミナルケア態度の積極性について検討した結果、「死の恐怖」、「死の回避」および「逃避型受容」がターミナルケア態度の積極性に対して負の影響を与えること、「死の回避」は学生時代と臨床での教育や研修により改善することを明らかにし、死生観の醸成に向けた系統的に学習できる教育プログラムの構築に向けた取り組みを継続して行なっています。また、看護現任教育として、琉球大学医学部附属病院看護部と協働して在宅療養支援における実践能力養成プログラムの構築を目指し、「急性期医療を担う病院看護師と在宅医療を担う訪問看護師の相互研修」などを行なっています。

脳科学・分子栄養学を駆使して健康長寿復興を目指す新しいアプローチ

図1
図2
図3

かつて世界に冠たる健康長寿を誇った沖縄県は、現在、肥満症や糖尿病が蔓延し、65歳までに死亡する割合(早逝率)や腎臓機能の低下に伴う血液透析療法の導入率が47都道府県の中でトップレベルに達しています。動物性脂肪やショ糖(砂糖)の過剰摂取は脳をハッキングし、自らが必要とするエネルギー量や栄養成分を判断できない脳に変えてしまいます。さらに、腸内フローラのバランスを変容させ、ますます肥満や糖尿病を起しやすい体質に変えてしまいます。このような学術的視点を踏まえ、私達は脳科学や分子栄養学を駆使して健康長寿の復興を目指す新しい研究に取り組んでいます。

そのひとつが玄米(米ぬか)の中に含有されている機能成分の研究です。動物性脂肪を与えて肥満させたマウスや培養脳神経細胞を用いた研究から、玄米に特異的かつ高濃度に含有されるγ-オリザノールが食欲中枢である視床下部に作用して小胞体ストレスを緩和する分子シャペロンとして機能し、動物性脂肪に対する強固な嗜好性を緩和するメカニズムを世界で初めて明らかにしました。このほかに、γ-オリザノールは膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)に働きかけて高血糖を改善する作用や腸内フローラのバランスを改善する効果があること、さらには、脳内報酬系に働きかけて食事の美味しさや満腹による幸せ感を受け取るドパミン受容体の機能を高め、”満足できない脳”を”足るを知る脳”に変える機能を持つことを分子レベルで初めて明らかにしました(図1)。

世界に類を見ない超高齢社会に突入した我が国において大きな社会的問題としてクローズアップされているのが認知機能の低下(コグニ)と依存症(アディクション)に代表される脳機能異常です。γ-オリザノールなどの玄米機能成分が認知機能障害や種々の依存症の改善に役立つ可能性が期待されており、琉球大学 第二内科ではSIPやNEDOをはじめ複数の国家研究プロジェクトを推進しています(図2)。

コメの学名は”オリザ・サティバ”であり、オリザノールは、まさしく、コメの油という意味です。また、玄米を構成する米ぬかの糠(ぬか)という漢字は米に健康の康と書きます。一方、糠の成分を取り除いて私達が食べている白米には粕(かす:何も残っていない)という漢字が充てられています。 無形世界遺産になった和食の素晴らしさを健康科学的に検証する機運が国際的に高まっており、琉球大学 第二内科の一連の研究は、自然科学界のトップ・ジャーナルであるネーチャー誌でも最近紹介されました(図3)。

診療における特色

低侵襲医療の担い手

1. 診療の特色

診療における特色を一言で言えば、「低侵襲治療」です。腎泌尿器外科でも、最近ではロボット支援前立腺全摘除術、腹腔鏡下仙骨膣固定術を開始し、ますます低侵襲に拍車がかかりました。他にも、腹腔鏡下に腎、副腎、前立腺、ドナー腎採取、腎盂形成、精巣がん化学療法後の後腹膜リンパ節郭清なども行っています。ロボット手術よりも難易度が高い腹腔鏡下前立腺全摘除術は琉球大学が沖縄県内唯一の認定施設であり、ロボット手術が適応できない緑内障や頭蓋内疾患を有する患者さんに対しては腹腔鏡下前立腺全摘除術を用いることができます。ちなみに、前立腺癌の治療に関しては、手術の他にも、永久密封小線源療法やIMRTがあり、重粒子線を除いたすべての治療法が揃っているため、患者さんが自分に合った前立腺癌の治療法を選択できるのが琉球大学の強みです。

当科を語る上でもう一つの特徴は、「外科と内科が融合」した診療科ということです。例えば、泌尿器系癌では、内科的な診断、外科的な手術に加えて、内科的な治療として抗がん剤を、中でも腎癌に対しては分子標的薬、最近ではがん免疫療法薬(抗PD-1抗体)を投与します。進行前立腺癌や去勢抵抗性前立腺癌に対しては、ホルモン療法、新規抗男性ホルモン薬、抗がん剤など内科的治療が主体です。進行精巣癌に対しては厳しく抗がん剤治療を行った後、最後に残存腫瘍を摘出し、癌の息の根を止めに行きます。排尿に関しては排尿症状と畜尿症状の程度に合わせて内科的に薬物投与を行いますが、神経疾患に対する知識も必要です。また夜間頻尿(殆どは夜間多尿)の原因の大部分は内科的疾患であり、内科的疾患にも目を配っています。

2. 腎泌尿器外科の位置付け

2015年前立腺癌の罹患数は男性癌の第1位となりました。また、腎・尿路系癌などと合わせて、泌尿生殖器系癌は男性癌の25%をも占めています。それだけ重要な役割が与えられていると感じます。

3. 最新治療の例

外科的治療に関しては、前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術は出血量が少ない(50cc程度)、尿道カテーテル抜去直後の尿失禁がほとんど無いなど、従来の開放手術に比較して非常に低侵襲であり、かつQOLも優れています。

骨盤臓器脱に対しては、当科ではTVMを行ってきましたが、より優れた治療法として腹腔鏡下仙骨膣固定術を導入したことに伴い応用範囲が広がり、より難易度の高い骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱、直腸脱のトリプル脱など)にも対処できるようになりました。

4. 腎泌尿器外科の研究

当科では、糖鎖に対するモノクローナル抗体を2種類有しており(うち一つは幹細胞マーカーのSSEA-4を特異的に認識する抗体)、これを利用した腫瘍マーカーの研究、泌尿器系癌の生物学的な研究を行っています。また、排尿の基礎研究や夜間頻尿の研究も行っています。

5. 若い人へ
ロボット支援前立腺全摘除術の準備完了

ロボット支援手術は10年後には外科標準治療として一つの大きな柱を形成しているでしょう。力が殆ど必要ないため、繊細な女性医師が活躍できる場が広がると思います。

また、日本の泌尿器科全般に、臨床のみならず研究も盛んです。一例として、日本の泌尿器科医が畜尿にβ3受容体が関与していることを見出し、日本の製薬会社とともに開発したβ3刺激薬は現在世界中の標準治療薬となっています。開発の中心的な役割を担った教授は臨床(膀胱全摘除術)も行い、研究も行ったことで得られた成果であると強調していました。このように、泌尿器科は、臨床も研究もやるという経験から幅広い視点を養うことができ、結果、科学・医療の発展に貢献できるポテンシャルがあります。

小児科医は子ども達の総合医

育成医学(小児科)講座は、平成29年2月1日に中西が教授に就任し、新しい体制で診療に取り組んでいます。

「小児科医は子ども達の総合医」と言われており、まずは心を含め全身を診る総合医的臨床力が求められ、医局員全員がそれを心がけ日々の診療に従事しています。中西の専門領域は腎臓病です。当科におきまして、今後、腎疾患管理を強化するとともに、全ての疾患分野に配慮し、患者さんとその家族のことを一番に考えて、丁寧な診療をしていきます。

大学の使命として研究は最も重要でありますが、臨床担当講座において、研究は単独に成り立つものではありません。研究と診療は表裏一体であり、常にリサーチマインドを持って診療にあたり、そこから生じた問題や疑問を解決する研究を推進します。

小児科の特徴は多くの専門分野を担当することです。当科にも多くの専門分野があり、診療と共に研究を進めています。具体的には以下のような内容になります。

今後、沖縄県の小児医療ならびに琉球大学のさらなる発展のため医局員一同力を合わせ頑張っていきます。

<小児腎疾患>
  • 腎炎・ネフローゼ症候群に対する臨床治療研究
    • 厚生労働科研研究(JSKDC)
    • 小児IgA腎症治療研究会
    • 小児難治性腎疾患治療研究会
  • 遺伝性、先天性腎疾患に関する研究
    • アルポート症候群に関する研究
    • ネフローゼ症候群の原因遺伝子に関する研究
    • 多発性嚢胞腎に関する研究
  • 慢性腎疾患の発症・進展機序・管理に関する研究
    • IgA腎症に関する研究
<小児血液・腫瘍性疾患>
  • 小児血液腫瘍疾患に対する多施設共同試験
    • 日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)
    • 日本小児がん研究グループ(JCCG)
  • 難治性進行神経芽腫に対するKIRリガンド不一致臍帯血移植の有効性についての多施設共同試験
  • リツキシマブを用いた小児難治性慢性ITP治療の有効性の検討
  • 造血細胞移植後の慢性消化管GVHD患者に対する経口ベクロメタゾン試験
  • 同種造血細胞移植後合併症である慢性GVHDにおける循環血中の抗原提示細胞に発現するNKG2Dリガンドの病態関与への役割の解明
  • 小児同種造血細胞移植後早期に発症する心膜炎発症のメカニズムの解明
<先天性代謝異常>
  • 先天代謝異常症の新生児マススクリーニング
  • 先天代謝異常症における細胞内代謝に関する研究
<小児膠原病・リウマチ性疾患>
  • 小児期発症リウマチ性疾患の我が国における疫学調査についての多施設共同研究
  • 全身型特発性関節炎に合併するマクロファージ活性化症候群の診断基準についての多施設共同研究
  • 若年性皮膚筋炎に合併する間質性肺炎の病態と特異的な自己抗体との関係に関する研究
  • 中條-西村症候群類似新規疾患の臨床的・分子生物学的病態解析
  • 小児期発症リウマチ性疾患の移行期医療について(移行期の心理的要因と治療効果について)
<新生児疾患>
  • 新生児重症呼吸循環不全症例の予後の改善をめざした集学的治療戦略の検討
  • 低出生体重児の子宮外発育遅延(EUGR)を回避するための治療戦略の検討
<小児内分泌疾患>
  • 小児がん経験者(CCS)における内分泌疾患の検討
<小児神経・筋疾患>
  • 難治性てんかんの発達予後改善のための先端治療の導入
  • 脳波異常と発達障がいとの関連の解析および治療法の検討
  • 筋疾患の診断と予後・QOL改善のための取り組みの検討
  • 重症心身障がい者・児の栄養・QOL改善のための医療的介入の検討
<小児アレルギー疾患>
  • 基礎疾患・合併症を有する難治性アレルギー疾患の病態研究
  • アレルギー疾患の発症予防およびアレルギーマーチ(アレルギー性疾患の連鎖的な発症)の抑制を目的とした介入研究
<希少・難治性疾患の治療研究と分子生物学的病態解析>
  • 小児稀少・未診断・難治性疾患に対する取り組み(IRUD-P)

心臓血管外科領域の低侵襲手術:TAVI( 経カテーテル的大動脈弁置換術)

図1:Sapien 3 valve®
図2:フレックス機能

近年、わが国の高齢化社会への急速な移行・重症患者の増加に伴い、心臓血管外科領域でも術後QOLを考慮した低侵襲手術が大きなテーマとなっています。代表的な例としては、弁膜症・先天性心疾患に対しての皮膚小切開・胸骨部分切開下での開心術(MICS)、狭心症に対しては人工心肺を使用しない心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)・小切開手術(MIDCAB)が低侵襲治療としての位置を確立しています。この領域における最新治療として、重度大動脈弁狭窄症(AS)に対する、経カテーテル的大動脈弁置換術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)が、2015 年から当施設でも導入されました。TAVIは高齢や合併疾患のため開胸による弁置換術が困難なハイリスク患者に対して、カテーテルを用いて大動脈弁位に生体弁を留置する治療法で、世界的にも弁膜症治療の概念を一変させました。同治療法は、2013年10月からEdwards 社のSapien XT Valve○Rが本邦で認可され、本年3月には累計症例が6,000例を超える状況であり、当施設も沖縄県唯一のTAVI 認定施設としてハートチーム(責任医師 國吉幸男第二外科教授、第三内科 岩淵成志、第二外科 永野貴昭)を設立し、現在まで46例施行しました。TAVIの適応は、開心術の適応が困難(他施設含め)と判断された症例をハートチームで検討し、CT等で得られた解剖学的条件を加味し統合的に判断されます。TAVI施行した症例46例は、男性12例、女性19例で、平均年齢86.9±3.9歳(79-92歳)と超高齢者でした。TAVI適応の主な主因としては超高齢+脆弱性:34人、低肺機能(間質性肺炎、HOT):5人、上行大動脈高度石灰化:2人、開心術後:4人(冠動脈バイパス術後:3人、僧帽弁置換術後:1人)、胸部ステントグラフト内挿術後:1人でした。手技成功は全例で得られ、手術死亡・入院死亡・術後脳梗塞合併症は認めず、またTAVI特有の冠動脈閉塞・弁輪部破裂・弁逸脱を含む重篤な合併症も認めませんでした。平均手術時間:94±20.3(69-153)分、出血量:107±164(10-923)mlで、輸血を要したのは14人(30.4%)でした。術後呼吸器・腎機能障害合併症を各2例(4.3%)に、術後ペースメーカー植え込み術(徐脈性心房細動の増悪)を3例(6.5%)認めました。TAVI術後の遠隔予後に大きな影響を与える高度弁周囲逆流(PVL)は現在のところも認めていません。手技に起因しない脳出血を1例に認めた以外の患者は全て自宅退院・リハビリ転院となっています。

今後も心臓・大血管領域でも低侵襲手術へのパラダイムシフトは加速の一歩を辿ると予想され、本邦でも心構造疾患(SHD:Structural Heart Disease)への低侵襲治療(カテーテル治療)という新たな局面を迎えています。このTAVIに関するご連絡ご質問は、医療情報提供書を、第三内科岩淵成志あるいは第二外科永野貴昭宛で、本院医療福祉支援センター(シエント)098-895-1371、FAX098-895-1498へお願いします。

集中治療部(ICU)

当院集中治療部は『特定集中治療管理料1』を県内で初めて認められた8床で運用され、麻酔科専門医を取得した3名の専従医が主治医と共同して日中の全身管理を行い、休日夜間も麻酔専門医1人を含む2人の麻酔科医が宿直して24時間体制の集中治療を実施しています。2016年の年間患者数は447人です。

『特定集中治療管理料1』では、従来の手厚い看護師の配置に加えて、専門の医師を複数配置することや臨床工学技士の院内常駐体制、1ベッドあたりスペース確保などより質の高い集中ケアを行う体制が整備されています。

重症認定看護師や呼吸療法士の資格をもった看護師、理学療法士の積極的な関与による集中ケア・急性期リハビリテーションと高度なモニタリングシステムを基盤に、ち密な集中治療を実践しています。

当院の特徴として植え込み型補助人工心臓(iVAD)や経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)などの高度な治療を行っています。呼吸不全では多様な高機能人工呼吸器を駆使した高度で安全な人工呼吸を行っています。腎や肝などの臓器障害や敗血症には、沖縄県唯一の急性血液浄化学会認定施設としてさまざまなモダリティー(CHDF、エンドトキシン吸着、顆粒球除去、リンパ球除去、血漿交換など)を駆使した急性血液浄化療法を、熟練した臨床工学技士と共同で実施しています。

機能画像診断センター(FIMACC)による癌診断について


平成25年3月より運用されている琉球大学医学部附属病院と隣接する機能画像診断センター(FIMACC;Functional Imaging and Communication Center)の現状についてお知らせします。このFIMACCは、がんの診断にとって重要な画像を提供するPET-CT検査を行う部門です。全身を20分弱で撮像しますが、FDGという薬(糖分でできており体の組織の糖代謝をみるものです)を投与してから1時間ほど待つので、検査時間としては長い部類に入ります。しかしほとんどは横になってもらいリラックスできる検査となりますので、病気で体力が低下している患者さんにも優しい検査です。PET検査において特に副作用などは見られず、ごくまれに注射が苦手な患者さんが迷走神経反射を起こすことはありますが、少し休んでいただければ問題はありません。

県内では他に2カ所の施設でPET検査を行っていますが、FIMACCでのPET検査は他の施設に比べて後発であるにも関わらず、順調に検査件数を伸ばしています。平成28年度では2398件(一日あたりの検査件数は平均10.34件)となっており、1台のPET装置で行うことができる検査件数の限界である12-13件に迫っています。FIMACCは近隣の病院からの紹介患者も多いのが特徴です(院外からの依頼は793件で、院内と院外の検査数の比は2:1となります)。検査のレポートは当日に(遅くても翌日までに)記載することで、依頼してくださっている主治医の先生方や患者さんの診療に速やかに貢献できるように心がけています。