同種造血幹細胞移植におけるHLAを介したGVHD発症の新たな 機序を解明した研究成果について―プレス会見報告―

琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 (第二内科)の森島聡子准教授と東海大学医学部基礎医学系分子生命科学の椎名隆准教授による「同種造血幹細胞移植におけるHLAを介したGVHD発症の新たな機序を解明した研究成果について」のプレス会見が2018年2月22日に本学で開かれました。

森島准教授らは、骨髄移植の際に生じる合併症である移植片対宿主病(GVHD)の新たな知見を見出しました。GVHDが患者とドナーのHLA(ヒト主要組織適合性抗原)の違いにより生じることは、従来の研究により明らかにされていましたが、本研究において、GVHDを生じるとされている部位とは全く異なる同一遺伝子上の部位が関与することを示しました。

森島准教授は、「今後、HLAのメカニズムを解明することで、移植分野のみならず、HLAが関わっていると考えられる自己免疫疾患や感染症等の治療法の確立にも結び付く。」と期待を述べました。

研究成果は、血液学のトップジャーナルであるBlood誌に2018年2月15日付 (日本時間2月16日)で掲載されました。

研究成果を報告する(左)森島聡子准教授(右)椎名隆准教授

 

記者からの質問に回答する森島准教授

会見の様子

―詳細―

琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 (第二内科)の研究成果が血液学のトップジャーナルBloodに掲載されました(Blood. 2018;131(7):808-817)。同種造血幹細胞移植後の移植片対宿主病 (GVHD)が、HLAアリルの進化と関係する機序によって起こることを初めて示した研究で、琉球大学内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座の森島聡子准教授が中心となり推進し、東海大学や京都大学との共同研究として行われた画期的な研究成果です。

同種造血幹細胞移植は、白血病など難治性の血液悪性腫瘍や再生不良性貧血の患者さんの治癒を期待できる治療法として確立されてきましたが、治療の成功を妨げる合併症として移植した細胞が患者の組織を攻撃することで生じるGVHDが問題となります。日本骨髄バンクを介した非血縁者間造血幹細胞移植では可能な限りHLA-A, -B, -C, -DRB1の一致したドナーを選択しますが、4座のHLAが患者とドナーで一致していても、HLA-DPB1が一致する可能性は低く、多くの患者はHLA-DPB1が不一致のドナーより移植を受けています。

非血縁者間造血幹細胞移植におけるHLA-DPB1不適合が移植後のGVHDに及ぼす影響は、最近報告された二つのメカニズムに起因することがトピックスとなっていました。一つは患者とドナーのHLA-DP分子のペプチド結合部位のアミノ酸配列の違いとの関係(T細胞エピトープ不適合アルゴリズム)で、もう一つは患者の不適合となるHLA-DPB1遺伝子の3’ untranslated region (3’ UTR) に位置するrs9277534 SNPとの関係です。この二つのメカニズムがお互いどのように関係するのかこれまで明らかにされていませんでした。

HLAアリルタイピングは、主に多型に富むエクソンのみの情報によって行われていましたが、我々は次世代シーケンサーを用いて日本人に頻度の高い19のHLA-DPB1遺伝子の全領域を解析して系統樹を作成し、HLA-DPB1アリルがエクソン 3から3’ UTR (Ex3-3’ UTR) の領域で明瞭に二つのグループに分類されることを明らかにしました。さらに、前述のrs9277534はHLA-DPB1遺伝子進化上、高度に保存されたEx3-3’ UTRのtag SNPであり、T細胞エピトープ不適合アルゴリズムで示されているexon 2がコードするペプチド結合部位の多型とは異なる機序でGVHDの発症に関連し、二つのメカニズムは相補的にGVHD発症のリスクとなっている可能性を示しました。

本研究で得られた成果は、造血幹細胞移植における同種免疫反応のメカニズム解明のみならず、様々な自己免疫疾患や感染症などにおける免疫反応とHLAとの関連性の解明に繋がるものと期待しています。