コートジボワールにおけるブルーリ潰瘍の現状

現在、琉球大学の皮膚病態制御学教室では、ブルーリ潰瘍を主とした『顧みられない熱帯病(NTDs)』に対する医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業(AMED)研究プロジェクトに参加しています。2018年7月下旬より、コートジボワールのブルーリ潰瘍についての現状を調査するために3週間滞在しました。

顧みられない熱帯病の一つであるブルーリ潰瘍は、Mycobacterium ulceransにより引き起こされ、時に直径数十センチに及ぶ皮膚潰瘍を形成する皮膚抗酸菌感染症です。WHOの報告では、年間5000例程度の新規症例があり、西アフリカはその好発地域であるとされています。コートジボワールは西アフリカの中でも特にブルーリ潰瘍症例の多い国です。アフリカにおける、ブルーリ潰瘍の好発年齢は5〜15歳であり、診断の遅れや不十分な治療により、患者は関節拘縮や醜形瘢痕などの後遺症や合併症に年余に渡り、苦しんでいます。

コートジボワールの小児ブルーリ潰瘍患者

3週間のコートジボワールでの視察、調査で、ブルーリ潰瘍に関する多くの問題点を目の当たりにし、そしてそれらの問題点を体現するような小児ブルーリ潰瘍患者との出会いがありました。その少年はコートジボワールの地方都市アゾペの医療施設に入院し、そこでブルーリ潰瘍の治療を受けていました。

医師や医療資源・施設が不足している現地の状況の中で、おそらく診断と治療開始の遅れにより、このように潰瘍が拡大してしまったと考えられます。今後適切な創傷治療やリハビリテーションを受けられなければ、おそらくは彼の右足の関節は拘縮してしまうことになるでしょう。すでに彼の右足はやせ細っていました。彼が入院していた施設では、スタッフの医学知識や医療設備は不足している部分が多く、施設に入院しているブルーリ潰瘍患者に対する治療の改善の余地は大きいと思われました。

ブルーリ潰瘍は、未だ感染経路は明らかでなく、簡易な診断方法がなく、抗菌薬療法についてもエビデンスレベルの高い研究はなされていません。我々の視察した農村部の診療所では、適切な創傷管理がなされていない印象を受けました。我々がコートジボワールで出会ったブルーリ潰瘍の少年のような子供たちを減らすためにも、感染経路の特定、早期診断方法の確立、効果的な抗菌薬療法、適切な創傷管理は必須であり、我々の参加するAMEDプロジェクトの課題でもあります。当科はこの中の創傷管理のパートを担当しています。コートジボワールの制限された状況の中で、実施・持続可能な創傷管理方法の提案や啓発をすることが我々の役目です。私は過去7年間、1年に2週間ほどの短期間ではありますが、ケニアの農村部での皮膚病診療に行った経験があり、それとともに琉球大学皮膚病態制御学教室での臨床、研究経験を生かして、このプロジェクトに携わりたいと考えています。