カロリー過多がなくてもメタボを引き起こす食事成分を同定(薬理学講座)

硝酸塩/亜硝酸塩の不足はメタボ、血管不全、突然死を引き起こす

 

メタボリックシンドロームは、心筋梗塞や脳卒中などの致死性動脈硬化性疾患のリスクを増加させます。メタボリックシンドロームの成因にはカロリー過剰摂取、運動不足、遺伝などの関与が知られていますが、その詳細な機序は未だ十分に解明されていません。

 

一酸化窒素(Nitric Oxide: NO)はNO合成酵素から産生されるガス状低分子化合物で、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしています。NOは酸化反応により亜硝酸塩(NO2)および硝酸塩(NO3)に代謝されます。硝酸塩/亜硝酸塩は不活性でこれまで単なるNOの代謝産物としての認識しかありませんでしたが、最近になって硝酸塩が還元反応により亜硝酸塩に次いでNOに変換されるという逆の経路が発見され、NO供与体としての新しい役割が近年注目を集めています。

 

硝酸塩はレタスやほうれん草などの緑葉野菜に多く含有されています。しかし、食事中の硝酸塩/亜硝酸塩が不足すると病気が生じるか否かは不明です。医学研究科薬理学の研究グループは、『食事中の硝酸塩/亜硝酸塩の長期不足はメタボリックシンドロームを引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証しました。その結果、低硝酸塩/亜硝酸塩食を3か月投与したマウスでは、有意な内臓脂肪蓄積、高脂血症、耐糖能異常が誘発され、18か月投与したマウスでは、有意な体重増加、高血圧、インスリン抵抗性、血管内皮機能不全が認められ、22か月投与したマウスでは、急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死が惹起されました(図1~4)。

上記の異常は、内皮型NO合成酵素発現の低下、アディポネクチンの低下、並びに腸内細菌叢の異常と有意に関連しており、これらの機序を介してメタボリックシンドローム、血管内皮機能不全、および心血管死が引き起こされていることが示唆されました。

 

本研究の成果はDiabetologia誌(インパクトファクター6.2)に平成29年3月28日にオンライン出版されました。論文のURLはこちらです。https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00125-017-4259-6

 

本論文の筆頭著者は薬理学の大学院生の喜名美香先生(歯科口腔外科)と坂梨まゆ子助教(equally contributed authors)で、責任著者は筒井正人教授です。本研究は、医学研究科の歯科口腔外科、第2内科、第3内科、分子細胞生理学、先進ゲノム検査医学との共同研究です。

 

論文の印刷版はDiabetologia誌の6月号に掲載される予定ですが、本論文の図が6月号の表紙に採用されました(図5)。本研究は「医療NEWS」「日本の研究.com」「大学ジャーナル」「m3.com」を含む多くのWEBサイトで紹介されています。「医療NEWS」では閲覧数が第1位になりました。