琉球大学と愛知県がんセンター研究所のがん研究に関する成果が総合科学誌に掲載。

「腫瘍細胞に侵入するペプチド~がんの新しい医療技術」

琉球大学大学院医学研究科・分子細胞生理学講座と愛知県がんセンター研究所・腫瘍病理学部が共同で進めているがんの医療技術の開発成果が、世界的なレベルの先端研究を掲載する総合科学誌の一つ「ネイチャー・コミュニケーションズ1」に掲載されました。

この技術研究では、ヒトのさまざまながんに選択的に侵入する短い配列のペプチドを用いて、からだに大きな負担をかけることなく腫瘍の検出・診断や腫瘍に医薬を効率よく届けることができる技術を構築できる可能性を報告しています。これらの特殊な機能を持つペプチドを、遠くの目標を探知して捉えるミサイルのシステムになぞらえて「腫瘍ホーミングペプチド」と命名しています。この「腫瘍ホーミングペプチド」は、現在まで世界で報告はなく、画像診断用薬品や内視鏡用色素で標識して、からだにやさしい微小がんの高効率探知技術(イメージング技術)に利用したり、また、これらのペプチドをキャリアーに利用してがんの増殖や転移を抑えるさまざまな治療用医薬を目的組織(がん組織)に効率よく届けることのできる新しい医療技術の開発が期待できると考えられます。

詳細については、下記のとおりです。

(1)研究の概要

今から20年ほど前より、ウイルスやショウジョウバエなどの持つある種のタンパク質には、細胞の外に存在していても細胞膜を通過して細胞内に吸収される特殊な性質を持つものが存在することが報告されていました。このような性質のタンパク質の一部を切り取って短いペプチドの形にしたもの(細胞膜透過ペプチドと呼ばれる)はその後ろに輸送目的とする物質をつなげれば、細胞やその集合体である組織への分子輸送技術を作ることができると考えられ、次世代医療技術への新しい可能性を持つツールとして現在まで大きな注目を集めてきました。しかし、これら既知のペプチドは正常とがんとの区別なく非選択的にさまざまな組織に取り込まれる性質を持つために、がんへの応用を考えたときにはからだに副作用を引き起こす危険性のある点で不適切でした。そのような問題から、ペプチドがヒトのからだには傷害の少ない優れた生物学的道具となる大きな利点がありながら、これらの細胞膜透過ペプチドをがんの医療技術に活かすことは難しいとされていました。

琉球大学大学院医学研究科(松下正之教授)、愛知県がんセンター研究所・腫瘍病理学部(近藤英作部長と斉藤憲研究員)らは、三菱化学と協力して、数千億から一兆種類ほどの不規則なアミノ酸配列の組み合わせからなる特殊なランダムペプチドライブラリー(mRNAディスプレイライブラリー)の中から、標的とするヒトがん細胞に選択的に高い侵入性を発揮するペプチドを分離・同定しました。現在までに開発した腫瘍ホーミングペプチドは、ヒト白血病・肝細胞がん透過性ペプチド、大腸がん透過性ペプチド、胃がん透過性ペプチドなど約10種類前後で、正常細胞系への取り込みを低く抑えながら、目的のがん細胞に高吸収性を示すことが確認されています。これらを応用した制がん医療への基本的応用技術についても検討を加えて発表しました。

1.「ネイチャーコミュニケーションズ」は、ネイチャーパブリッシンググループの発刊するネイチャーに次ぐ総合科学誌(ネイチャーの姉妹誌)で、生物学・化学・物理学など幅広い分野における先端科学の最新の知見や、当該分野の科学の発展に世界的なインパクトを与える独創性の高い研究成果のみを掲載しています。


開発に携わった研究者(左から)斎藤(愛知県がんセンター研究所レジデント)・近藤(愛知県がんセンター研究所・腫瘍病理学部長)・松下(琉球大学大学院医学研究科教授)