第二内科の研究成果が Diabetologia(2017年 8月号) に掲載されます。

琉球大学第二内科(内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座)の研究成果が糖尿病研究におけるトップ・ジャーナルのひとつ、ヨーロッパ糖尿病学会誌 Diabetologia 2017年 8月号(60:1502-1511, 2017)に掲載されることになり、表紙を飾るカバー・ストーリーにも選ばれました。玄米機能成分 γ-オリザノールが ゲノム修飾 (エピゲノム)に よって“満足できない脳” を “足るを知る脳” に変える新しいメカニズムを解明しました。生活習慣病の根本的解決につながる可能性を拓く画期的成果として注目されます。
  琉球大学第二内科から現在、ハーバード大学ジョスリン糖尿病センターに留学中の小塚 智沙代 医学博士らが中心となって推進した研究成果で、琉球大学 大学院医学研究科の分子解剖学、薬理学、分子細胞生理学講座、成育医療センター(東京)、東京大学との共同研究が実を結びました。


  かつて世界に冠たる健康長寿を誇った沖縄県では、現在、肥満症や糖尿病が蔓延し、65歳までに死亡する割合(早逝率)や腎臓機能の低下に伴う血液透析療法の導入率が47都道府県の中でトップレベルに達しています。動物性脂肪やショ糖(砂糖)の過剰摂取は脳をハッキングし、自らが必要とするエネルギー量や栄養成分を判断できない脳に変えてしまうため、肥満症や糖尿病患者の生活習慣改善の指導は しばしば困難を極め、リバウンドを繰り返す場合が少なくありません。

このような学術的視点を踏まえ、私達は脳科学や分子栄養学を駆使して健康長寿の復興を目指す新しい研究に取り組んでいます。

そのひとつが玄米(米ぬか)の中に含有されている機能成分の研究です。私達は動物性脂肪を与えて肥満させたマウスや培養脳神経細胞を用いた研究から、玄米に特異的かつ高濃度に含有される機能成分であるγ-オリザノール(4種類の分子種から構成される植物ステロールとフェルラ酸のエステル重合体)が食欲中枢である視床下部に作用して小胞体ストレスを緩和する分子シャペロンとして機能し、動物性脂肪に対する強固な嗜好性を緩和するメカニズムを世界で初めて明らかにしました。さらに、γ-オリザノールは膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)に働きかけて高血糖を改善する作用や腸内フローラのバランスを改善する効果があることを突き止めました。

今回、私達はさらに研究を深め、γ-オリザノール脳内報酬系に働きかけて食事の美味しさや満腹による幸せ感を受け取るドパミン受容体の機能を高め、“満足できない脳”を“足る を知る脳”に変える機能を持つことを分子レベルで初めて明らかにしました。まず、動物性脂肪の過剰摂取はDNAメチルトランスフェラーゼの作用によって線条体などの脳内報酬系のドパミン受容体遺伝子のプロモーター領域におけるDNAメチル化を亢進させ、結果として遺伝子・タンパク発現を低下させることがわかりました。そして、γ-オリザノールは脳内報酬系においてDNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤として機能し、ドパミン受容体遺伝子のプロモーター領域におけるDNAメチル化を減少させ、結果としてドパミン受容体の遺伝子・タンパク発現低下を正常化することが明らかとなりました。

今回の研究成果は天然食品成分を活用して、動物性脂肪によってハッキングされた “満足できなくなった脳”を“足るを知る脳”に生まれ変わらせることが出来る可能性を示すものとして画期的です。世界に類を見ない超高齢社会に突入した我が国において大きな社会的問題としてクローズアップされているのが認知機能の低下(コグニ)と依存症(アデイクション)に代表される脳機能異常です。γ-オリザノールなどの玄米機能成分が認知機能障害や種々の依存症の改善に役立つ可能性が期待されており、琉球大学 第二内科ではSIPやNEDOをはじめ複数の国家研究プロジェクトを推進しています。

コメの学名は“オリザ・サテイバ”であり、オリザノールは、まさしく、コメの油という意味です。また、玄米を構成する米ぬかの糠(ぬか)という漢字は米に健康の康と書きます。一方、糠の成分を取り除いて私達が食べている白米には粕(かす:何も残っていない)という漢字が充てられています。無形世界遺産になった和食の素晴らしさを健康科学的に検証する機運が国際的に高まっており、琉球大学 第二内科の一連の研究は自然科学界のトップ・ジャーナルであるネーチャー誌でも紹介されました(2017年3月30日号)。
Diabetologia誌のカバー・ストーリーの説明文は 以下のようにジャーナル誌上で紹介されております。

An overweight man considers which kinds of food to eat. Excess dietary fats strengthen the preference for fatty foods via dysregulation of the brain reward system.
  The cover shows oil droplets containing a variety of foods, including vegetables, brown rice, pizza and desserts.
  In the present issue of Diabetologia, Kozuka et al report that the brown rice-specific bioactive substance γ-oryzanol acts as a potent inhibitor of DNA methyltransferases in brain striatum in mice, thereby attenuating the preference for dietary fat via the epigenetic modulation of the dopamine D2 receptor. The study highlights γ-oryzanol as a promising anti-obesity treatment with a distinct property as an epigenetic modulator in humans.