おきなわクリニカルシミュレーションセンター(仮名称)、2012年完成予定!
大屋教授を筆頭に琉球大学が力を入れる
「おきなわクリニカルシミュレーションセンター(仮)」が
2012年に完成予定!
今回、取材にお伺いしたのは、琉球大学大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座(医学部附属病院第三内科)の 大屋 祐輔 教授です。
県内の医師不足等の医療問題の解決・地域医療の再生に力を入れる大屋教授は、沖縄県、沖縄県医師会、琉球大学が一つになって立ち上げたプロジェクトの中心となり、国からの財政的支援を得て、現在、沖縄クリニカルシミュレーションセンター(仮名称)の設置計画に取り組んでいます。
【クリニカルシミュレーションセンター立ち上げのきっかけ】
臨床系医学の勉強・トレーニングをする時に、従来の本を読んですぐヒトでの実習するという形ではなく、実習に入る前にシミュレーターを使い十分練習した上で実習に移る、そうすることにより効率よく学習できる背景があります。そして今回、日本で、医師不足、地域医療の崩壊という大きな問題が顕在化し、国から医療再生基金として各県ごとに補助金、事業費の支援がありました。これについて、沖縄県、医師会、琉球大学や県立病院を始めとする沖縄県の病院の話し合いにより、このシミュレーションを用いる教育トレーニングセンター、すなわち、おきなわクリニカルシミュレーションセンターの建設計画が始まりました。沖縄県は歴史的にアメリカの医学教育システムを取り入れてきた経緯があり、医師を育てるという教育の部分で優れた実績があります。この沖縄の医療教育システムを伸ばし、かつ全国から研修医のみならず、専門修練医などを沖縄県に呼び込むための起爆剤にし、さらに、全世界に発信出来るような沖縄の新しい魅力にしたいとの関係者の想いが、このプロジェクトに繋がりました。
【クリニカルシミュレーションセンターの仕組み】
これは、琉球大学内の施設ですが、県内の医療機関の共同利用施設として運営し、琉球大学だけでなく、県内の医師や看護師、トレーニング担当者、教育プログラム開発者など、外部の先生たちに積極的に集まってもらうコンセプトで進んでいます。従来の琉球大学のイメージをさらに超えて、さらに地域に拓かれたセンターというのが目標です。
センターは大きく3つのゾーンに分かれます。1つめのゾーンは、このセンターの大きな特徴である、救急を中心としたシミュレーション教育を行うゾーンです。沖縄の医療の伝統ともいえる現場主義の中で生まれてきた救急・プライマリーケアを系統的に学ぶための、シミュレーションの場を作りたいと思います。たとえば、急に意識を失った人が、救急車で運ばれてきた時にどう対応するかの医師の知識、技能を学ぶだけでなく、判断のチェック、医師と看護師のコミュニケーションのチェック等が出来るプログラムなどが考えられています。
2つめは、学生、若い医師、若い看護師などが基本的な診療技能を学ぶゾーンです。模擬患者さんとやりとりをし、コミュニケーションのスキルを練習したり、診察技術を学ぶ、また、それに関する実技試験(OSCE)を受けたりする場所です。将来的に卒業試験や国家試験の認定にもこのようなOSCEが加わると言われています。現在、クリニカルシミュレーションセンターでは、卒業後の2年間の臨床研修が終了した時点で、沖縄県にいる研修医全員に同じプログラムでOSCEをし、満足あるレベルに到達しているかどうかを調べ、不十分なところは復習させるという計画も検討されています。
3つめに、専門的なスキルを身につけるためのゾーンがあります。例えば、腹腔鏡手術をする時などに使用するマジックアームを動かすトレーニング、超音波診断のトレーニング、カテーテル検査や血管を広げる手技のトレーニングなどの、専門的な手技の勉強、手術の練習をするゾーンとなります。専門医になりたい人たちのニーズを取り込んでいくことを目的とします。建物は3階建てで作られ、1階は、救急と手術室などに関係するゾーン、2階は基本的臨床技能やOSCEを中心としたゾーン、また、一部分に専門的な手技を覚えるためのシミュレーターを置く場所を設けます。3階は講習会や集団練習等に使用する大部屋となります。
【今後どのようなものになっていくのか】
センターの完成予定は2012年2月〜3月で、4月から運営予定をしています。しかし、教授らは、施設運営開始から全速力で色々な教育が出来るように、教育に関わる方々のFD(Faculty Development=指導にあたる教育者のトレーニング)を開始しています。また、ハワイ大学やピッツバーグ大学のシミュレーションセンターから講師をお呼びし、講演会やセミナー、ワークショップ等を開いて、シミュレーション教育とは何か、それを使ってどのように教育をするのかを幅広く知ってもらうための取り組みを始めています。
こういったシミュレーション教育は、欧米のみならず、台湾やシンガポールといったアジアで急速に広がってきていますが、日本全国では系統的に行っている施設は限られます。そこで、この琉球大学の施設では、アジアとの連携やハワイ大学との連携を視野に入れています。大屋教授は、最先端を走るこの取り組みが新しい沖縄の医学界の誇りとなることで、これに魅力を感じた人々が賛同し、沖縄で働きたいと思ってくれる人たちが増え、それが医療の再生に繋がることを強く期待しています。また、このシミュレーションセンターは、学生に対しても魅力的なプログラムを提供出来るので、学生自身も琉球大学で学んだという誇りを持てるようになってほしいと願っています。
(写真は、シミュレーションセンターの視察で訪れたMcGill大学のWilliam Osler祈念図書館にて。
臨床医学教育の父とされるWilliam Osler博士のレリーフを前に、
左端から、地域医療教育開発講座の山岡教授、1人置いて、大屋教授、
中部病院総合内科の尾原先生です)